2021-03-21

栗原さんインタビュー ~ オーガニックな暮らし ~

【栗原史郎さん】
寄居町の料亭の家に生まれる。
調理の専門学校卒業後、京都、東京で7年間の修行を経て、寄居町へUターン。実家の料亭で働く。
毎日忙しい日々だったが、新型コロナウィルスの影響で勤務時間が減少。
できた時間で自分と向き合い、日々『自分らしい幸せ』をテーマに活動中。

 

 

ー 栗原さんがオーガニックに関心を持ったきっかけを教えてください

僕の場合、オーガニックに強い思い入れがあるからと言うより、より自分らしく生きようと思った結果、その先にオーガニックがあったという感覚です。
コロナ禍で自分の時間が増え、読書や他の人の話や生き方を聞く機会を積極的に増やしました。
ビジネス系YouTubeなんかも観たりしていました(笑)
自分でも自覚はありましたが、本当に井の中の蛙なんだってことを再確認しましたね。
そして「自分の人生とは」をよく考えるようになったんです。

 

ー コロナが自分について考えるきっかけになったんですね。栗原さんはその期間でどんなことに気がついたのでしょうか

そうですね、知的労働よりも肉体労働。攻めるよりも守り。大きくより小さく。勇ましさよりも優しさ。
お金よりもやり甲斐。苦心よりも健康。
こんな感じでしょうか。これで僕がどんな奴か、大体わかると思います(笑)

 

ー とてもわかりやすいです。その自問自答の先にオーガニックがあったわけですね?

僕が好きなもの、譲れないもの、逆にやりたくないものを突き詰めて行った先が畑でした。
畑は2020年の秋から友人と2人で始めました。
ちょっと大袈裟な表現かもしれませんが、畑を始めた事で得られる幸福感はとてつもなく大きかったですね。

 

ー そもそも畑をしようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか

友人とは保育園からの付き合いで家も近所、小さい時からずっと遊んでいた友達で、損得もなく無理に奪ったり与えられたりもしない正に有機的な関係なんですね。
ちょうどその友人が寄居町に帰ってきて起業をすることになったんですが、その頃、僕も働きたいと思っていても働く時間が減ってしまったタイミングだったんです。
そこで僕はコロナ禍、友達は起業でと、お互い人生のパラダイムシフトになったわけなんですが、とりあえず食べるものだけあったら死なないよな、という話になって。
そんな安易な考えではじめました(笑)

 

ー 自給自足ができればなんとかなるというような(笑)

そうなんです、それがはじまりで(笑)
趣味とかではなくて、生きるためにと思って。
そんな友人と毎朝6時に畑に集まり土に触れる。
朝日を浴びながら土に触れ、肉体労働をするというのは本当に気持ちがいいんです。
それだけでも幸せですね。
およそ一万年前の農業革命以降、人はずっと土と共に生きてきたんだということを言葉ではなく感覚で理解しました。

 

ー 畑から得られるものは大きかったんですね

そうですね、あとこれは余談なんですが、始めて緊急事態宣言が発令された時、まちの飲食店さんが一斉にテイクアウトを始めましたよね。
食べる事が大好きな僕はそれはもう丸々と肥えてしまったんです(笑)
でも畑を始めたおかげで生活サイクルが改善され−8kgの肉体改造にも成功したんです。
身体が軽くなると思考も研ぎ澄まされたり、ビジュアルも少しは良くなった、はずです(笑)

 

ー それも立派なオーガニックのメリットですね(笑)

他にも、オーガニックな土にはたくさんの微生物がいます。
今僕たちを苦しめているコロナウィルスはプラスチックの様なケミカルな表面に付着した場合、数日間生き続けることが分かっているんですが、逆に有機物、段ボールや紙などに付いたウィルスは比較的早く消滅します。
さらに森に落ちたウィルスは瞬間的に消滅してしまうんです。
それは多様な微生物が森の中では共生しているから。
ということは沢山の微生物が共生する畑の土もまた同じだということになります。
僕らは土に、細かく言うなら微生物に助けられ、共生しながら生きているんですよね。
それが分かると全てのことに感謝できるようになるんです。
自然に生かされている。
そう思えるようになると、悟りとまでは言いませんが心豊かに優しくなれ、本来の自分の姿のままでいられるし、この先もそうありたいと思ったんです。
そうなると自然に食べる物、作るもの、はたまた人間関係までもがオーガニック、有機的になっていくと思います。

 

ー 人間関係がオーガニックにというのは理想的ですね。
  それでは、栗原さんはこれからどんなことをしていきたいと思っていますか。

まだ具体的な話ではありませんが、いつかは自分のお店(飲食店)を持ちたいと思っています。

 

ー いつかは自分でお店を持ちたいと思っているんですね。どんなコンセプトを考えていますか?

今までの飲食店とは違う、自然に寄り添ったお店にしたいですね。
ここで言う自然とは緑が多いという意味ではなく、ありのままということです。
山があり鳥が唄い、川が流れ風が吹く。
そんな大自然の一部のようなお店。
そして、その時期に畑で採れた野菜や果実を使って料理を提供する。
「これがないと料理が作れないから」と無理に外国産の食材や大量生産されたものを仕入れるや
り方はあまりしたくないと思っています。
あくまで『今ある美味しいもの』を出す。
無理はしない。

 

ー 無理をしない。正にオーガニック的な考え方ですね

そうですね。そしてそれは人間も同じだと思っていて。
昔の飲食店は週6日、朝昼晩働いて、ジャンジャン稼ぐみたいなイメージがありましたよね。
でもそんな日々を過ごしているとどんどん疲弊しまうのが実体験から分かったんです。

 

ー それは修行時代から感じていたということですか?

当時はあんまり考えてなかったんですよ。
どちらかというと本気で働こうという気持ちが強かったですね。
料理とか食材が入ったらSNSにあげたり、頑張ってはいたんですけど、何か自然でないような気がして。
お店を繁盛させたいという気持ちが強くて、それで良いと思っていたし疑いもしなかったんです。
でもやっぱりコロナになってから色んな考えに触れて、必死に働いて功績を残すだけが人生じゃないなって思ったんですよね。もっと僕らしい生き方があるんじゃないかと。

 

ー 調理の経験が長い栗原さんの言葉には重みがあります

疲弊すると新しい料理のアイディアも出なくなるし気持ちも塞ぎがちになります。
笑顔が作れなかったり、お客さんと会話をしているときでも次の言葉が出てこない。
これではダメだなと思ったんです。
『本気で働く』から『本気で暮らす』へのシフト。
そこに幸せな人生を送る為のヒントがあると思うんです。

 

ー 本気で暮らす。これからはそれが主流になっていくかもしれませんね

仕事や料理も私生活も、豊かに暮らしていく為には無理はしない。
これこそが本来の意味でオーガニックなのではないかと思ったんですよね。
また、飲食店の呪文『お客様は神様』論(笑)
これも僕の考え方とは違うんです。
僕らお店側もお客さんを尊敬するし、お客さんにも僕らの事を尊敬してもらいたい。
お互いが思いやりリスペクトし合うお店を作りたいし、それこそがこれから先の地球全体のテーマになってくると僕は思っています。
そんな思いやりのコロニーがたくさん繋がって有機的で持続可能な新時代のお店が出来たらいいなと思っています。

 

ー ありがとうございます。栗原さんのこれからの活躍が楽しみです。

ありがとうございました。

 

 

<編集後記>
インタビュー場所に現れた栗原さんは、まだ寒い時期なのに半袖のTシャツのままで、作業ズボンには泥がついていました。聞くと、朝から畑仕事をしてそのままの足でお越しいただいたとのこと。その顔は実に清々しく、充実している表情でした。世の中全体に重苦しい空気が続いている中、栗原さんはコロナ禍の混乱の中で自分を見つめ直して「自分らしさ」と向き合い、その答えを見つけたようです。インタビューを通して、オーガニックの本来の意味を感じることができました。

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